「おはよう」の挨拶がすむと、私は「痛いだろうか?」と言いながら、いきなり朝礼台の上で腕を曲げて見せました。(中略)「校長先生、そんなことしたら痛いです」と、言ってくれたのは、やはり一年生でした。
「そう、こんな方向に曲げたら痛いね。(中略)でもね、きのうみんなが帰るのを見ていたらね、運動場で、こうもり傘をビューンと急にふり回すもんだからね。こうもり傘が朝顔みたいに上向きに開いてしまってね、こうもり傘の骨が痛い痛い、痛いよって泣いているのに、その泣き声が聞こえない子がいたようだぞ。(中略)」
あくる日は、はからずも「愛物博覧会」ができてしまいました。(中略)鉛筆が短くなって使えなくなったら、「さようなら、ありがとう」とお礼をいい、箱の中に納めてから新しい鉛筆をおろすという子どものもってきた「さようなら、ありがとう」と書いた蓋(ふた)をとってみると、綿をしいた上に、使えなくなった短い鉛筆が、きちんと並んでいました。
出典:東井(とうい)義雄(よしお)「正直者からは正直者の光が」探究社・法藏館(令和6年8月)26頁—28頁