寺報「ねがい」
お知らせ
2024.09.01
亀は亀のままでいい 兎にならなくてもいいのだよ
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(前略)ビリッコを走りながら、毎日、考えたことは「兎と亀」の話でした。あの話では、亀は兎に勝ちました。けれども、兎が亀をバカにして、途中で一眠りしたりするものだから、たまたま、亀が勝ったにすぎません。いくら努力しても亀は、どこまでいっても亀で、走力は、とても兎には及びません。ですから、あの話は、ねうちのある亀は、つまらない兎よりは、ねうちのうえでは上だ、という話ではないかと考えました。亀は、いくら努力しても、絶対、兎にはなれない。しかし、日本一の亀にはなれる。そして日本一の亀は、つまらない兎よりも、ねうちが上だという話ではないかと考えました。そして、私も「日本一のビリッコ」にはなれるのではないか、と考えるようになりました。(中略)

気づかせてもらってみますと、川の流れにより添って、岸が、最後の最後まではたらき続けて、流れを海に届けているように、貧しく、愚かで、不器用な私により添って、「兎と亀」の話を思い出させ、「亀は、亀のままでいいのだよ、兎になろうとしなくてもいいのだよ」と、気づかせてくださったり、不出来な教員にも、不出来な教員の生きがいを目覚めさせてくださるおはたらきが、はたらきづめに、はたらいていてくださった気がするのです。

 

出典:東井(とうい)義雄(よしお)[1]「お米のいのち心から拝んでいただく」探究社・法藏館(令和5年8月)23頁—26頁

[1] 1912年、兵庫県豊岡市但東町の真宗寺院に生まれた。1932年に兵庫県姫路師範学校を卒業して40年間、県下の小・中学校に勤務。ぺスタロッチー賞(広島大学)、平和文化賞(神戸新聞)、教育功労賞(文部省)など、数々の教育関係の賞を受賞。篤信の念仏者としても知られている。1991年4月18日に逝去。豊岡市但東町(元町役場に隣接)に東井義雄記念館がある。