悟君は、二年生の途中に転入して来た子どもでしたが、前の学校でも、登校拒否で先生方を困らせていたということでした。私の学校に来てからも、担任が、
「われこそは、彼の登校拒否を解決してみせるぞ」
と、いろいろ手をつくしてくれましたが、「元気を出せ」「もっと元気を出せ」と、いろいろ熱心に励ましてやっても、どうにもならないまま、六年生を迎えることになってしまいました。
私は、男子でいちばん年の若い米田先生に彼の担任を依頼しました。(中略)米田先生は、彼に「もっと元気を出せ」とは言いませんでした。
「悟君、実は、ぼくも気の弱い男で、ほかの人が、人の気持ちなんか考えようともせず、自分の思い通りに何事もやってのけるのを見ると、うらやましくなってしまう。(中略)が、考えてみると、これは悪いことではなくて、人間としていちばん大切なことではないだろうか。悟君、お互いに、ぼくらのこの気の弱さ、もっと大切にし合おうではないか」(中略)
米田先生の担任になってから、悟君の登校拒否はピタリとやみました。(中略)
人間をしあわせにする「学力」は、人間と人間の協力と磨き合いの中で育ちます。「人間」を揺り動かし、目覚めさせ、脱皮させ、ますます人間らしい「人間」を育て上げるような「学力」を目指さなければなりません。
出典:東井(とうい)義雄(よしお)「こころの味を大切に」探究社・法藏館(令和7年8月)16頁—17頁
