寺報「ねがい」
寺報 ねがい
2024.02.01
よろこびのたねを はぐくもう
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小学校の卒業式のことです。(中略)

用務員の井口さんの胸に、花を飾ったのはN君でした。

「一時間目の勉強が始まってからでした。先生の用事で、おばちゃんの部屋にいったら、おばちゃん、朝ご飯を食べておられましたね。先生から聞いたら、おばちゃんは、毎朝、夜が明けないうちに起き、お掃除をしたり、お湯を沸かしたり、私たちのために用意してくださるんですね。そして、おばちゃんが、ごはんを食べられるのは、私たちの勉強が始まってからになるんですね。おばちゃんは、校長先生よりも忙しいのですね。どうか、おばちゃん、体を大事にして、後に残るみんなのために、よろしくお願いします。」

と、胸に花を飾ったときには、井口さんも、とうとうこらえ切れなくなって、ワッと声をあげて、泣いてしまいました。 司会のMちゃんが、(中略)

「小学生として、最後の校歌を、心をこめて歌いましょう。在校生の皆さんも一緒にお願いします。先生方も一緒にお願いします」

と言われ、卒業していく女の子の伴奏で、司会の女の子の指揮で、校歌を歌いましたときには、感慨無量でした。

出典:東井(とうい)義雄(よしお)[1]「お米のいのち心から拝んでいただく」探究社・法藏館(令和5年8月)4頁—8頁

[1] 1912年、兵庫県豊岡市但東町の真宗寺院に生まれた。1932年に兵庫県姫路師範学校を卒業して40年間、県下の小・中学校に勤務。ぺスタロッチー賞(広島大学)、平和文化賞(神戸新聞)、教育功労賞(文部省)など、数々の教育関係の賞を受賞。篤信の念仏者としても知られている。1991年4月18日に逝去。豊岡市但東町(元町役場に隣接)に東井義雄記念館がある。