(前略)ビリッコを走りながら、毎日、考えたことは「兎と亀」の話でした。あの話では、亀は兎に勝ちました。けれども、兎が亀をバカにして、途中で一眠りしたりするものだから、たまたま、亀が勝ったにすぎません。いくら努力しても亀は、どこまでいっても亀で、走力は、とても兎には及びません。ですから、あの話は、ねうちのある亀は、つまらない兎よりは、ねうちの上では上だ、という話ではないかと考えました。亀は、いくら努力しても、絶対、兎にはなれない。しかし、日本一の亀にはなれる。そして日本一の亀は、つまらない兎よりも、ねうちが上だという話ではないかと考えました。そして、私も「日本一のビリッコ」にはなれるのではないか、と考えるようになりました。
「もし、ぼくがビリッコを独占しなかったら、部員の誰かが、このみじめな思いを味わわなくてはならない。ほかの部員が、このみじめな思いを味わうことなく済んでいるのは、ぼくが、ビリッコを独占しているおかげだ」ということに気がついたのです。「ぼくも、みんなの役に立っている」という発見は、私にとって、大きなよろこびとなりました。(以下略)
出典:東井(とうい)義雄(よしお)「こころの味を大切に」探究社・法藏館(令和7年8月)9頁—13頁
